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[在宅医療のすすめ] 医療を取りまく現状分析
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Dr.平野のある一日 医療を取りまく現状分析
 
      提言:新しい看取りのかたち                          
  現在の医療費の高騰の原因の一つに、高齢者に対する延命治療が考えられています。病院で働いた経験と、訪問診療での経験を元に現状を考えたいと思います。
    患者さんの病院から在宅への移行という考え方には、医療費の圧縮という狙いがあるのは間違いないと思います。これが、弱者の切り捨てになってはなりません。つまり、適切な医療サービスを享受する機会を失うことになってはならないということです。医療技術は日々発達し呼吸管理、栄養の管理技術も発達し、寿命は今後も延びることが可能と思います。しかしこれによって、誰もが幸せを感じているかといえば、医療の現場にいると疑問です。
    自分の経験で考えれば、病院において目の前の患者さんが口から物を食べられなければ、患者さんの病状や年齢を考えずに、点滴、高カロリー輸液、そして経管栄養へと次々と手段を講じます。また呼吸状態がおかしければ、酸素吸入、人工呼吸器、気管切開と進みます。また、心臓の状態によっては、血圧を維持する内服をそしてペースメーカー等を考えます。これらは意識の無い患者さんにも提供されます。そして状態が安定すれば、転院、退院を検討しますが、実際ご家族としては、自宅へは連れて帰れないことが多く見られます。
    胃瘻(いろう)を使用し、全身状態が改善し、歩行も可能になった例も私は経験していますが、多くは一時しのぎになることも多いと思います。いまここで書いていることは、経管栄養や人工呼吸器を否定する話ではありません。神経難病の方にこれを用いて、ご自宅で過ごされるケースもありますが、高齢者にやみくもにこれらの行為をおこなうのは疑問です。
    時々、不思議な感覚に襲われることがあります。これらの処置に対して、患者さんも、ご家族も、そして医療者も幸せを感じるどころか、絶望していることが多くあります。なぜこうなるのでしょうか。患者さんに適応を考え、基準を数値化するのは不可能と思います。医学的な数値だけではこれは解決できない世界です。これが究極に偏ると、先に書きましたように、「医療サービス享受の剥奪」「弱者切り捨て」につながるからです。医療を経済として考え、これらの適応を考えるのは断じてなりません。しかし逆に、100歳の老人の大往生する機会も奪ってしまう可能性もあります。
    技術の発達には、それに伴った倫理観の熟成も望まれるはずですが、現状では机上でこれらを議論することはありますが、現場において患者さん、ご家族を交えた形で、討論されるケースはほとんどないのではないでしょうか? ある日突然、この瞬間が訪れることもあります。つまり救急の状態ですが、そこではゆっくり討論する時間はありません。
    これまでの医療は、すべてが「生」につながる考え方でしたが、私のこの3年余の経験は「死」の迎え方も考慮しなくてはならない、ということを気づかせてくれました。
    在宅医療は、医療経済的な意味合いだけでなく、家族の「絆」、そして「死生観」を再認識する良い機会でもあると思います。ご家族が患者さんを入院させる理由の一つには、家族の「死」から回避したいとの考えもあると思います。しかしこの部分は、我々が今後避けてはならない部分ではないかと思います。
    医療の現状の問題を考えるにあたって、在宅医療は良い機会になると思います。その経験を通 して、私は自分なりに問題を提起し考える必要があると思います。
  Dr.平野
提言:新しい看取りのかたち へ
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